てっぺいが来た夜、天気予報は、雪。

3月も半ばだというのに、積もるらしい。
ペットヒーターを購入し損ねた てふは、夜間の寒さが気が気じゃない。
何しろ、日中20度以上のところで生活していたというから、風邪でもひいたらどうしていいかわからない。

電気を消して、寒さ予防にゲージに毛布をかけた。
実は、夜鳴きが心配だった。
本には、「夜鳴きがひどい場合は、人間がしたとは悟られないように、ゲージに毛布をかけるといいでしょう」と書いてある。
てっぺいが、我が家に来て10時間経過しているが、うん、すんの一言もない。

「この子、なかない犬だね。」と私。
「この子、なけないんじゃないの」と夫。

ドタン、バタンと緊張した1日が、布団にすーっと沈んでいく。

朝方5時過ぎに 目が覚めた。いつもより1時間早い。てっぺいの部屋が寒いんじゃないかと気になって、寝室の戸をあけて様子を見る。
ゲージにかけてある毛布の隙間から、こちらを覗くてっぺいの丸い目とぶつかる。とたんに、ゲージの中を走り回るてっぺい。人の姿を見つけて喜んでいる。ばたばた、ばたばたと 音が響く。
ふと、てっぺいの部屋のストーブがついている。
不思議に思っていると、横から、夫が、
「僕が、3時頃につけたんだよ。てっぺいが、寒いだろうと思ってね。」

あれほど、関心なさそうにしていた夫である。
先を越されて、ちょっと負けたような気がしなくもないが、とにかく、嬉しい。彼が、てっぺいを思っていることがわかったから。

ゲージから、出してやると、居室内を探検。右往左往しているうちに、ちー。昨日と同じところで、済ませてしまった。きれいに拭いたのに、やっぱり、臭いが残っているのかな。

膝の上に乗せて、ブラシッグをする。
ちょっと、逃げそうになるが、観念してか、膝から動かない。
アゴの下や、足をブラシして終了。
「お利口だったねえ」と、猫なで声が出る。
このチビ犬が来たら、私は益々多忙になり、時間を惜しんでいらいらするだろうと思っていた。が、この想いは、何だろう。何者にも代え難い大切な想い。わが子を手にした時と同じ思いをまたも抱けるとは、思っても見なかった。背中をなでながら、空を見つめる。てっぺいは、膝の上で、寝息を立てている。閉じた瞳の上に まつげが 吐息と共に揺れる。人間の赤ちゃんが、毛皮を着て、眠っているみたい。ふつふつを湧き上がる愛おしい想い。
仕事と家事と、子どもやおじいちゃんの話を聞くだけで1日が慌しく過ぎる私の心に、てっぺいのスペースが、ぐんと広がった。
時間も空間も、今まで以上に伸張したのである。

時間を人生を豊かにするって、こういうことなんだろう。

大切に、大切に。我が家の末っ子長男だね。